別冊春号 2021のシェヘラザードたち
第5夜 症状緩和のその先に—苦しむ人のために何ができるのか?
鳥崎 哲平
1
1熊本大学病院 麻酔科 緩和ケアチーム
pp.25-29
発行日 2021年4月15日
Published Date 2021/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3104200195
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私は大学病院で緩和ケアに従事している医師9年目の麻酔科医です。麻酔科に入局後しばらくは手術麻酔と緩和ケアを兼任していましたが,麻酔科専門医の資格を取得してからは徐々に緩和ケアのウエイトを増やし,現在は100%,緩和ケア診療に専従しています。
私は医学生の頃から緩和ケアに従事したいと考えていましたが,緩和ケア医のキャリアパスは(良くも悪くも)ひと通りではありません。麻酔科に限らず,内科や外科,精神科など,さまざまなバックグラウンドをもった医師たちが緩和ケア医として活躍しています。
そんな中で,私が麻酔科医としてキャリアをスタートさせた理由は,症状緩和こそが緩和ケアの基礎だと考えたからです。quality of life(QOL)の改善,自分らしい生き方,尊厳ある最期など,緩和ケアが目指すものは多々あれど,いずれも強い苦痛にさいなまれた状況では「それどころではない」でしょう。
苦痛にもさまざまなものがありますが,なかでも痛みは,がん患者に多くみられ,QOLを著しく損ねるものの,うまく対処すれば多くが緩和される症状です。そのため私は,痛みの専門家であり,さらには多種多様な苦痛に対抗する最終手段である鎮静の専門家でもある麻酔科医という道を選択しました。
今夜はそんな私が緩和ケアに従事し始めて丸2年がたとうとしていた頃に出会った,忘れられない患者さんについてお話しします。患者さんのプライバシーに配慮し,実例にもとづいた仮想症例という形ですが,主要な出来事や患者さんとのやり取りは事実に近い形で記します。
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