別冊春号 2021のシェヘラザードたち
第4夜 効かない硬膜外麻酔—あの局所麻酔薬はどこにいったのか?
新山 幸俊
1
1秋田大学大学院医学系研究科医学専攻 病態制御医学系 麻酔・蘇生・疼痛管理学講座
pp.19-24
発行日 2021年4月15日
Published Date 2021/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3104200194
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麻酔科医としての研修が始まった頃,私は硬膜外麻酔が大の苦手だった。当時は,まず両手で針を固定して進められるハンギングドロップ法で穿刺し,液面が動いたと思った時点でさらに抵抗消失法で硬膜外腔を同定していた。長い時間をかけ,ようやくカテーテルを留置したものの,いざ手術が始まってみると,血圧と心拍数が跳ね上がり,慌てて局所麻酔薬を追加投与したがまったく改善しない。「あの局所麻酔薬はどこにいったのか?」と敗北感に打ちひしがれながら,仕方なくフェンタニルを投与して麻酔を維持した。
当時の消化器外科手術は開腹で行われていた。自らの失態を恥じつつ,指導医に「手術が終わって覚醒させる前に硬膜外麻酔をやり直させてください」と相談するも,「うーん,大丈夫でしょ」と言われ,結局そのまま覚醒させたが,案の定,患者は苦悶の表情で身をよじって悶絶。しかも「矢野さん! わかりますか!? 矢野さん!」という私の呼びかけに応えた患者の第一声は「き・・・菊地です…」だった。私は絶望に目を閉じ,その場にいた全員ががっくり肩を落とした。
「それってネタでしょ」と言われるが,忘れられない本当の話だ。こんなことがあってはならない。今夜は硬膜外麻酔について改めて考えてみたい。私見に満ちた内容となるが,お付き合い願いたい。
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