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「若(私の呼称),CVがAに入ってる」
ラグビー部出身で,どっしりとした体幹が自慢の先輩麻酔科医がそう呟く。威風堂々と,CVカテ(中心静脈カテーテル)とPAカテ(肺動脈カテーテル)を挿入した新人麻酔科医の僕に彼は続ける。
「ほら,モニター見てみろって」
促されるまま,その背景に深々とした漆黒をたたえる生体情報モニターに目を向ける。真っ暗な世界の中で,いくつものカラフルな線が描かれては消え,消えてはまた描かれていく。それは花火のようにはかなくはあるが,「ピッ…ピッ…」と生命の咆哮を力強く繰り返している。ふと,赤く命脈を刻むAラインの圧波形に重なって律動する,青々とした線が僕の網膜に結像する。
「まさか,そんなはずは…」
“CVP(中心静脈圧)”という名のその線は,僕のささやかな自尊心を砕くように,槍のように急峻な峰々を無慈悲に描き続けた…。
皆さんにはこのような経験はおありだろうか?
若手麻酔科医にとってCV穿刺は垂涎のイベントで,確実かつすみやかに手技をこなすことに楽しみを見いだす人も多い。穿刺法として,機械的合併症を減少させる超音波ガイド法が近年強く推奨されており,今やほとんどの麻酔科医が超音波ガイド穿刺を行っていると思われる。麻酔科医が頻繁に行う内頸静脈穿刺は特に容易であり,苦手意識をもつ人は少ないだろう。
しかし,超音波ガイド法を用いたにもかかわらずCVカテが動脈に迷入した報告が存在している。CVカテの動脈誤留置は脳梗塞や血腫による気道の圧迫,血胸など致死的な合併症につながるため,その予防・対応策を熟知しておく必要がある。本稿では,私が過去に報告した症例とともにCV穿刺のピットフォールを紹介し,安全・確実なCV穿刺を行うためのメッセージをお伝えする。
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