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麻酔科医としてペインクリニックに携わるようになったとき,硬膜外ブロックや星状神経節ブロックといった交感神経ブロックの威力には感心させられたものである。
痛みを訴える患者は少なからず交感神経緊張状態にあるので,筋骨格系にはなんらかの虚血性変化が起こっていると考えていた。当時は,交感神経ブロックによる血流改善は発痛物質の洗い出しだけでなく,組織の虚血性変化を改善し,その結果として痛みがなくなるものと信じていた。また,ブロック注射後の患者から「注射したら腰が楽になったよ」などと言われて,こちらも気分よくしていたように思う。しかしペインクリニック外来に出るようになって数年たつと,ブロック注射が効いているにもかかわらず長期に通院する患者が多いことに気づいた。これらの患者は多彩な症状を訴えることが多く,さまざまな症状に対応するため,また体質改善になるかと期待して漢方薬を試してみた。そして,ある漢方の勉強会で「世の中には多くの薬があるが,血流を増やす効果をもっているのは漢方薬だけ」という話を聞いて,硬膜外ブロックなどの部分的な交感神経ブロックだけでなく,漢方薬を併用することによる総合的な血流改善を期待した。漢方薬の効果か,いくらかの患者で症状が改善し通院を終えることができたが,やはり長期通院する患者は多かった。
なぜ痛みが改善しないのか。どうして痛みが慢性化してしまうのか。これまで学んできたペインクリニック診療に疑問を感じるようになり,この慢性疼痛診療に関する疑問を解決するために研究会などで勉強をしてきた。
運動器疼痛研究会(現・運動器疼痛学会),NPO法人いたみ医学研究情報センター(現・認定NPO法人いたみ医学研究情報センター)の医療者研修会,福島県立医科大学整形外科学講座の半場道子先生の痛みと脳,報酬系に関する特別講演(2013年第26回日本疼痛漢方研究会)などの影響を受け,今では私の慢性疼痛診療の考え方は大きく変化している。
今回提示する難治性慢性疼痛患者に対し,今ならば違ったアプローチができるのではないかと考え,反省点を検討し紹介する。
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