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■臨床の視点
▲術後の痛みが遷延する患者は50%にものぼる
術後慢性痛は,(1)術後少なくとも3か月間持続する痛みで,(2)手術後に生じたもしくは増強し,(3)手術部位もしくはその関連領域に限局し,(4)悪性腫瘍や感染など他の原因によるものは除外される,と定義される1)。その頻度は手術後患者の10〜50%にものぼり,患者の2〜10%は日常生活に支障をきたすような重度の痛みを有する2)(表1)。近年日本で行われた多施設研究においても,人工膝関節置換術を受けた患者の約半数が術後3か月時点で痛みを有することが明らかになっている3)。
術後慢性痛のリスク因子は大きく患者要因と手術要因に分けられる。患者要因としては,若年,女性,術前から痛みを有する患者,不安や抑うつを有する患者などにおいて,遷延性術後痛のリスクが高いことが知られている。また手術要因としては,乳房切除術や開胸術など,特定の術式でその頻度が高いことや,手術部位や手術時間,麻酔方法,さらには術後急性期の痛みが強い患者において痛みが遷延しやすいことも多く報告されている4)。
術後慢性痛は身体機能の回復を遅らせるだけでなく,心理的負担の増大や長期の疼痛治療によって術後患者のQOLを著しく損なう5)。そのため,有効な治療法や予防法の確立が望まれており,国際疾病分類第11版(ICD-11)において慢性痛の原因として明記されるなど,近年急速に注目が集まっている。
術後慢性痛の治療法や予防法を確立するためには,まずその病態解明が必要であり,(1)臨床現場における疫学調査や治療介入による効果検証に加え,(2)基礎研究領域におけるメカニズム解明という両面からのアプローチが求められる。これまでに,実験動物モデルを利用した術後慢性痛研究が盛んに行われているが,まだ十分にそのメカニズムはわかっていないのが現状である。今回われわれは,術後慢性痛モデルラットを確立し,術後急性痛が慢性化する過程における変化をとらえることで,その病態解明に取り組んだ。
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