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先人たちの牽引によって本邦でも集中治療という領域が広く認識されるようになり,EBM(エビデンスに基づく医療)の概念も広く普及してきている。依然として論文や研究の解釈には欧米との違いがあり,幅広い解釈がみられるものの,共通言語が整いつつあるのではないだろうか。各施設では,ガイドラインや最新の無作為化比較試験(RCT),時にはlimitationのある研究も参考にしながら診療プロトコルの作成が進められ,マネジメントの統一がはかられている。プロトコルの存在によって,初学者でも比較的安定した管理が可能となり,(少なくとも)同一施設内でのコンフリクトを最小限にでき,(色々と思うところがあるスタッフもいるかもしれないが)チーム全体で同じ方向を向くことができるため,患者に一貫した治療を提供することが可能となる。
しかし,若手医師にとっては,プロトコルを通じて「1つの答え」を先に知ることになるため,強い意志をもってプロトコルのメカニズムを意識しないかぎり,その成り立ちや背景,また別の選択肢があり得ることを学ぶ機会が失われることになる。つまり,自身が直面したクリニカルクエスチョンを現状のエビデンスから紐解き,decision makingする機会と経験が奪われるリスクを有しているということである。本来,プロトコル作成にあたっては,ガイドラインから世界標準のマネジメントを学び,代表的な研究を通じてその背景を理解し,推奨がない領域では観察研究や基礎研究を参考にしつつ,適切なマネジメントフローを組み立てていくというステップを踏むはずである。臨床指導をしていると,「〇〇病院ではこうしていました」という発言に対して「それはなぜ?」と質問しても,明確な答えが返ってこない場面に出くわすことは少なくない。プロトコルの存在で診療が整いつつある現在,逆にそのメカニズムを言語化できる良い指導医や,それを解説して臨床に落とし込んでくれる良いテキストの重要性が増してきている。
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