特集 原子力を理解するために
放射線の害と防禦
伊沢 正実
1
1放射線医学総合研究所
pp.35-40
発行日 1957年11月15日
Published Date 1957/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910477
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利用価値と危険性
新しい発明,発見が広く応用されるようになるかどうかは,それを利用することによる利と害とのバランスがどちらにかたむくかによつてきまるといえましよう。飛行機が発明された動機は,純粋な大空へのあこがれであつたでしようが,それが公衆の交通機関として発展したのは,その危険性が利用価値にくらべ比較にならない程低いと考えられたからでしよう。またストレブトマイシンが結核の薬として発見されてこのかた,聴覚神経を犯すという有難くない副作用があるにもかかわらず広く用いられているのも,その効果が欠点をおおつてあまりあるものとされたためといえます。しかしながら,社会的な要請や害に対する知識の不足から,利用がすすんだ後になつて面倒な問題が起つている例も数多くあります。鉱山や化学工場などからの排水や排気が,作物を枯らしたりその他の害を及ぼして,即時その対策を考えなければならない状態にある例をよく耳にしますし,硅肺などの職業病や,もつと一般的には都市の大気汚染などの重要な公害問題があります。そして,これらの場合考えなければならないことは,何か目にみえる被害が起つてからはじめて,対策が考えられる実状にあるように思えることです。
原子力利用の場合にも全く同様で,利益と害とのバランスを常に考えることが必要です。
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