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心臓手術における医療関連感染は10〜20%に発生すると言われており,手術部位感染surgical site infection(SSI),カテーテル関連血流感染,カテーテル関連尿路感染などが多く,その数は年々増加傾向にある1)。そのなかで,SSIは心臓手術患者の約0.25〜6.0%に発生すると報告されており,これまでさまざまな研究が行われてきた。SSIを減らすには,適正な抗菌薬を使用するだけでは困難であり,術前,術中のそれぞれに適切な予防を総合的に行うことで,初めて減らすことが可能であると考えるべきである。なお,本来SSIの定義とは術中における感染を指しているが,実臨床では周術期感染も含めてSSIとして扱われることが多い。
本稿では,日本の実情を考慮しつつ,近年報告されている研究を交えながら,心臓血管外科手術におけるSSIを減らすために,現時点で我々ができることは何か?その問いに対する回答を提示・考察していきたい。なお,本稿は,ASHP*1ガイドライン2),NICE*2ガイドライン3),閲覧可能なガイドラインのドラフト版〔CDC*3 SSI予防ガイドライン2014ドラフト版4)(以下,CDCガイドラインドラフト版),日本の術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン,ドラフト版5)(以下,術後感染予防抗菌薬ガイドラインドラフト版)〕なども参考にした。
Summary
●術前のリスク評価とその所見に基づく対応を実践するべきである。特に糖尿病と禁煙に関する指導を推奨する。
●SSIを減らす目的でクロルヘキシジン術者消毒や清拭を行う強い根拠はまだない。
●ムピロシン軟膏の鼻腔内塗布は,グリコペプチド系抗菌薬との併用でSSIを減らす有効性が報告されているが,適切な投与量,期間は不明である。MRSAのムピロシン耐性化を進めないためにも,現時点ではMRSA保菌者に使用を限定するなど,ルーチンでの使用は慎むべきである。
●周術期予防抗菌薬の第一選択はセファゾリンである。バンコマイシンはルーチンで使用する推奨はないが,MRSAの保菌者やβラクタム系抗菌薬へのアレルギーがある患者では使用を検討してもよい。
●抗菌薬はセファゾリンであれば執刀直前から30分前までに,バンコマイシンであれば執刀1時間前までに投与を終えておくことが推奨される。再投与は,抗菌薬の半減期の2倍の時間での投与や1500mL以上出血した場合に検討する。
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