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胃生検の歴史,これに関して詳細にまとめた文献はわが国でも幾つかみられるので,ここではまず,かいつまんで簡単に述べ,現時点に至るまでの幾多の先人の努力を思い返してみたい.ヒトの胃内に初めて直達鏡を挿入したのは呑刀師にヒントを得たKussmaulおよびその共同研究者(1868,日本では明治維新の年)とされるが,生の胃粘膜採取とその組織学的検査の試みは,強く吸引した胃洗浄液中に胃粘膜片を見出し,それを組織検索したEinhorn(1894,日清戦争の年)が最初とされる.そして実際に胃鏡を用いて胃組織を採取したのはJackson(1906,日露戦争の翌年)が最初と言われる.しかし,これが実際に広く試みられるようになったのはKenamore(1940,太平洋戦争勃発1年前)がSchindlerの軟性胃鏡の外側に取り外し可能な生検鉗子を付けて生検を試みてからとされる.その論文に載せた写真で見ると,その鉗子はほとんど現在のものと変わりはなく,現今広く使用される鉗子の原型と言えるものである.その後Benedict(1948)は生検鉗子挿入可能な軟性胃鏡を作り,1951年までに203例の生検を施行している.しかしこれは,生検不能な部位も多く,また狙撃生検は不可能であった.本邦では1951年,岸本,常岡がBenedict型と同様の胃鏡を試作しているが,これは広く使用されるに至っていない.一方,Woodら(1949)は胃鏡を用いず,陰圧吸引下に胃粘膜を切断採取するgastric biopsytubeを考案した.しかしこれは当然狙撃性はなく限局性の病変診断には全く無力であった.しかし,その後も胃鏡にWoodの吸引生検装置を取り付けたもの(Shiner 1956)や,胃鏡の先端部に起立可能な鋭匙を取り付けたもの(信田,1958)など,狙撃生検を狙って種々工夫されたが,軟性胃鏡の到達範囲に限界のあることより,目的を果たすことは当然不可能であった.1958年Hirschowitzによるファイバースコープが登場したわけであるが,これは内視鏡の歴史の中で正に画期的出来事であると共に,胃内目的狙撃生検を可能とした極めて価値ある発明でもあった.このファイバースコープは1968年(明治維新後満100年)わが国に初めて上陸したが,同年には国産ファイバースコープFGS-Aも製作されている.翌年の1964年には胃カメラを組み込んだGT-F型も登場しているが,この年,癌研の高木はHirschowitzのファイバースコープの管側にビニール管を装着し,硬性胃鏡用の生検鉗子を通して胃生検を行う方法を考案発表した.これがおそらく,ファイバースコープを用いて直視下に狙撃生検を試みた世界最初の試みであったと思われるが,ここに至るまでにいかに多くの苦心の積み重ねがあったかがうかがわれるのである.その後は日ならずして鉗子溝を組み込んだ本邦製のファイバースコープが試作され,その後,引き続きファイバースコープと生検装置の改良進歩がすすめられ,ほどなく組織診断,特に癌鑑別診断のためのルチーン・ワークとして広く使用されるに至ったのである.本誌においてもいち早く5巻7号(1970),9巻1号(1974),14巻2号(1979)に生検特集号を組んでおり,生検の普及に力を入れてきた.そして今回は既に4度目の特集である.しかし,そのテーマは“"生検の問題点”としたわけである.かかるテーマを選んだ理由について以下に簡単に説明を加えてみたい.ファイバースコープに生検鉗子が結び付けられた1964年から今年で既に20年を経たわけであり,高木の学会発表を実際この目で見,また聞いたときのことを明らかに覚えている筆者には,この20年の過ぎ去った速さはうたた感慨に耐えない.感傷はさておき,この間に胃癌研究会生検分類委員会により胃生検診断分類が出され,それは生検組織の鑑別診断に際して,よき指標として長年広く使用されてきたのであるが,長年の経過追跡が同時に行われた関係で,主として,GroupⅢとされるものに,分類の目的と内容に少しく不一致性が感じられるようになり,この度,新たに生検組織分類委員会により胃生検組織診断分類(Group分類)改正案が出されたのである.そこで第1に改正案の内容を十分に理解し,従来の分類との異同点を認識してもらう,第2には臨床応用の面において今回の改正案が適切かどうかを論じてもらうことが本特集号の目的である.また生検組織診断はあくまで形態学的診断であり,熟練者と未熟練者の問にGroup分類の差異が当然起こりうる.これを何らかの補助手段により計量的に,より客観的に判定しうる方法はないのか,それも併せて本号で示してもらおうというのがもう1つの目的である.
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