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1949年にRobertsonがくも膜下出血後の神経学的合併症を報告したのに続き,1951年に血管攣縮との関連が明らかにされて以来,脳血管攣縮による神経学的後遺症はくも膜下出血の最も一般的な合併症として知られている。
それを予防もしくは治療するために高血圧療法hypertension,循環血液量増加療法hypervolemia,血液希釈療法hemodilutionを組み合わせたいわゆるTriple H療法が行われている。1990年の報告では,Triple H療法により脳血流量が34.2±5.8%上昇し,一部の患者で神経学的な改善が認められ,悪化した患者はいなかったとされた1)。そうした背景があるものの,大規模な無作為化比較試験(RCT)などが行われぬまま本療法は広く用いられるようになっていった2)。2009年に行われた北米のNeurocritical Care Societyのメンバー375名を対象としたアンケート調査3)では,高度な血管攣縮や症状を呈した場合に,全員が中心静脈圧(CVP)10mmHgを目標に輸液を行い,98.8%が目標とする血圧を達成するために昇圧薬を使用すると回答するなど,高い割合でTriple H療法を行っている現状が明らかとなった。
しかしながら,2001年に行われたRCT4)では,32例のHunt and Hess GradeⅠ~Ⅲのくも膜下出血患者に2000mLの5%ブドウ糖液と晶質液の投与に加え,1000~1500mLの膠質液を輸液し,CVPを8~12cmH2Oに保ち(hypervolemia),ドパミンを昇圧薬として使用し術前より20mmHg高い平均動脈圧を目標とし(hypertension),ヘマトクリット値は30~35%(hemodilution)として管理した群では,対照群と比べて1年後の機能予後,症候性血管攣縮の発生頻度も有意差を認めなかった4)。
このような状況から,最近はTriple H療法そのものが見直されてきており,Triple H療法の各要素が患者予後にどのように寄与するかを検討した研究も行われてきた。そこで,本コラムではTriple H療法の現状を取り巻くエビデンスについてまとめる。
Summary
●hypovolemiaは害を及ぼす可能性が高く,避けるように管理する。
●至適血圧は現在のところ不明であり,積極的な輸液や昇圧薬の投与による管理は好ましくない。
●意識的な血液希釈の必要性は乏しい。
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