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急性期呼吸管理に関して,質の高い研究によって臨床的に重要なアウトカムの改善が示され,強く推奨されるものは少ない。具体的には,ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の急性期には6mL/kgの1回換気量で換気すべきこと1)と,人工呼吸器離脱の方法として自発呼吸トライアル(SBT)を用いるべきこと2)の2つしかないと言ってもよい。それぞれの根拠は,2000年のARMA研究1),1995年のEsteban研究を始めとする複数の研究2~4)であることは,すでに多くの読者もご存知であろう。実際,この2つのエビデンスのインパクトは,以降の臨床研究がこの2つの要素を含まないプロトコルで行われると,鬼の首を取ったかのように批判されてしまうほどに大きい5,6)。もちろん,日常臨床に与える影響の大きさもはかり知れない5)。
一般的に臨床研究の進歩に欠かせないのが診断基準の統一であり,呼吸も例外ではない。ARDSに関しては,1994年に遡り,米国・欧州コンセンサスカンファレンスで診断基準が統一された(AECC criteria)7)。診断基準の統一とそれに続く2つの巨星的臨床研究によって,集中治療の花形であるARDSの予後は改善したのだろうか。
面白いことに,1996~2005年にかけてARDSの予後が改善した8)とする報告もあれば,1994~2006年にかけて予後は改善しなかった9)とする報告もある。この違いが何を意味するかについての分析は本コラムの主題ではないので他に譲るが,診断基準に内在する問題点,依然として25~30%と高い死亡率9),長期の肉体的・精神的予後10)など,未解決の問題の改善に少しでも役に立つことを祈りつつ,本年,新しいARDSの診断基準,いわゆるBerlin criteriaが提唱された11)。
本「呼吸器離脱」特集は,人工呼吸器離脱に関して漏らすことなく述べたつもりである。読者もおそらくお腹が一杯になっていることと思うが,このコラムでは少しだけ“離脱前”に注目してみたい。
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