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例えば,2歳の子どもが頭部外傷のために集中治療を要している場合,誰が児童虐待の可能性を検討できるだろうか。脳外科医?集中治療医?小児科医はかかわっているか?そして,もし児童虐待が否定できない場合にどう動けばよいか,はっきりした道筋はあるだろうか。
児童虐待の問題点の1つは,まず疑わなければ始まらないということであるが,さらに,疑った場合に迅速かつ適切な対応が,組織的にできるかどうかも大きな問題である。児童虐待の場合には,実に多様な状況や形態で病院を受診するが,多くの場合,虐待特有の特徴があるわけではない。さらに保護者から聴取した病歴が誤っていたり,不完全であったりすると,診断の遅れや誤診につながる。医師個人の判断や行動に委ねるにはあまりに負担が大きく,また見過ごしてしまうリスクが非常に高い。チームによる組織的な診療が欠かせない理由がここにある。さらに,児童虐待は虐待を受けている患児の症状にかかわらず,常に緊急性が高いという認識が必要である。
集中治療医が児童虐待の診療に積極的にかかわる機会は,決して多くはないだろう。しかし,児童虐待は理不尽に幼い心身を傷つけ,時に生命を奪う。もし見逃してしまえば,患児にさらなる苦痛を与え続け,患児に兄弟がいれば,彼らもほぼ間違いなく犠牲者である。医師としてかかわる子ども全員に対して,児童虐待の可能性がないかどうか考えてほしい。
一方,小児科医は外来診療,入院患児にかかわらず,すべての患児について児童虐待の可能性を考慮するわけだが,集中治療を要する患児の場合にも特別なことがあるわけではない。患児が集中治療を要していたり,外因性疾患の割合が高かったりするだけのことである。主科が小児科でなくとも,ぜひ積極的にかかわってほしい。
また,2010年の臓器移植法改正後,家族の書面による承諾で15歳未満の臓器提供が可能となったが,虐待を受けて死亡した児童から臓器が提供されることがあってはならない。適切な対応が必要である。
本稿では,集中治療医がかかわることが多いと思われる身体的虐待を中心に,虐待が見過ごされることをなくすべく,その特徴について触れる。
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