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血液浄化療法は1945年にKolffらが急性腎不全患者の救命に成功1)して以降,主に慢性腎臓病chronic kidney disease(CKD)および急性腎傷害acute kidney injury(AKI)における腎代替療法renal replacement therapy(RRT)として発展,普及してきた。しかし,昨今では,AKIの多くは集中治療を必要とする多臓器不全の患者に発生し,現在ではRRT,特に持続的血液浄化療法continuous renal replacement therapy(CRRT)は腎臓専門医の手を離れ,集中治療医がより多くを経験する治療法となっているようである。
しかし,血液浄化療法を腎臓の働きの代替としての視点から捉え,その治療を専門の1つとしている腎臓内科医でさえ,明確な原理に基づいた透析処方を行っている者は少ない。さらに,昨今のAKIに対する血液浄化療法は,単なる腎機能の代替“renal replacement”から,腎機能の果たすべき体液恒常性の維持“renal support”を行う治療法としての意義が増してきている2)。いわゆるnon-renal indicationへの応用がなされていることにもつながっているのだが,その意義*1は別として,応用の仕方も十分な血液浄化療法の理解に基づいたものとは言い難い印象もある。
血液浄化療法の原理に対する理解が進んでいない理由として,対象症例がさまざまであること,急性期疾患に特有の大規模無作為化比較試験が行いにくいことなどにより,エビデンスが確立されていないことが挙げられる。しかし,本当の理由は,テクニック中心のマニュアル本や数式中心の“医学書”が多く,血液浄化の意味を理解させる適切なテキストが存在せず,それぞれの医師が研修した施設のやり方を“当たり前のこと”として無批判に受け入れてしまっていることにあると思われる。筆者(柴垣)が海外での臨床研修に向かった際,「血液浄化療法は我が国が一番であり,海外で学ぶべきものはない」と言われたが,実際には“当たり前の治療”として深く考えることのなかった血液浄化療法の原理を一から学ぶことができ,大いに自分の財産となった。それは,海外では我が国のように効果の証明されていない高額な治療を自由に行える環境になく,たとえエビデンスはなくても,その治療法が理論的に正しいことを社会に示すことが重要であったからである。
本誌は,一流の臨床家が書く,エビデンスを踏まえた総説が売りであると認識しているが,CRRT領域には“一流の”エビデンスはかなり不足しているのが実情である。そのようななかで患者や社会に対して良心的な医療を行うためには,その原理を習得し,理にかなった治療を心掛けるべきであると思われる。
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