特集 AKI
3.病態生理
【コラム】AKIの病態生理―急性尿細管壊死と腎前性腎不全という言葉の意義
内野 滋彦
1
Shigehiko UCHINO
1
1東京慈恵会医科大学 麻酔科 集中治療部
pp.478-481
発行日 2009年7月1日
Published Date 2009/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3102100221
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急性尿細管壊死acute tubular necrosis(ATN)と腎前性腎不全pre-renal azotemia(PRA)はAKI(急性腎傷害)の原因のうち約70%を占めると報告されており,これら2つの病態の理解と鑑別診断はAKIの臨床において非常に重要なことと考えられている1,2)。しかし最近になり,この伝統的ともいえる概念に対し疑問が投げかけられるようになった3)。この概念のどこに問題があるのか。このことについて考えるために,まずATNとPRAについての教科書的な記載から確認しよう。以下の文章は『ハリソン内科学』や有名雑誌の総説から抜粋したものである4~7)。
・急性腎不全は病態生理により腎前性,腎性,腎後性に分類される。
・PRAは腎低灌流に対する生理的な反応によって生じ,腎組織は保持されており,腎血流量と糸球体限外濾過圧が戻れば急速に回復する。
・腎性腎不全は種々の原因により腎組織(血管・糸球体・尿細管・間質)が障害されたものである。
・腎性腎不全のもっとも一般的な原因は虚血性ischemicもしくは腎毒性nephrotoxicによるATNである。したがって,急性腎不全とATNは同義に用いられることも多い。
・腎低灌流が高度もしくは長期間になると腎実質の虚血障害を招き,ATNが発生する。つまりPRAとATNは連続した病態である。
・補液によりPRAは改善しうるが,ATNでは補液は有害となりえる。そのためPRAとATNの鑑別は非常に重要である。
・鑑別には尿生化学検査や尿沈渣が有用である。
このコラムでは,この“教科書的な常識”に少しだけ挑戦してみようと思う。
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