快人快説
水素ガス吸入療法の可能性を探る—虚血再灌流障害に対するガスの医療応用を巡る最近の動向
林田 敬
1,2,3,4
,
佐野 元昭
4,5
Takashi HAYASHIDA
1,2,3,4
,
Motoaki SANO
4,5
1慶應義塾大学医学部 救急医学教室
2Department of Anesthesia, Critical Care & Pain Medicine, Massachusetts General Hospital
3Harvard Medical School
4慶應義塾大学 水素ガス治療開発センター
5慶應義塾大学医学部 循環器内科
pp.967-975
発行日 2016年10月1日
Published Date 2016/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101200685
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虚血再灌流ischemia reperfusion(IR)障害は,虚血領域への血流の再灌流によって惹起される臓器障害で,冠動脈再建術や臓器移植,心停止後症候群post cardiac arrest syndrome(PCAS)などの際に問題となる。近年,一酸化窒素(NO),硫化水素(H2S),一酸化炭素(CO)などのガスメディエータ,および分子状水素(H2),キセノン(Xe)が,心臓や脳などのIR障害に対して保護的に働くことが明らかにされている。
これまでに,分子状水素(H2)の生体作用に対する動物実験,臨床研究の報告は300編を超えている。酸化ストレス障害に関連する動物実験では,おおむね有効であろうとする報告が多い。しかし,H2の特定の標的分子や特異的な作用の解明は,いまだ完全にはなされておらず,今後の発展になくてはならないものであろう。一方,その効果の大きさと,明らかな副作用が認められないという特性は,早期臨床応用化を期待させる。このようにH2に関する臨床研究は,現在,黎明期にあるといえる。
臓器保護や抗炎症などの新しい用途で,将来,臨床使用される可能性を秘めているガス状物質の中で,筆者らはH2を用いた基礎・臨床研究を行ってきた。本稿では,PCASに対するガスを巡る最近の話題,および,これまで筆者らが行ってきたH2の臨床応用の経験と今後の展望について概述する。
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