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■今月の「留学記」にはウルトラマン,ヒーローと正義について触れられています。ウルトラマンと怪獣との戦い,思い起こすと,それは肉弾戦。科学特捜隊が最新の科学兵器を用いてまず向かって行くのですが,歯が立たない。そこで最後は,3分1本勝負のバトルが始まる。そして究極の超能力技でウルトラマンが勝利。これで言えば,人類の平和を守るために戦う科学捜査隊が原子力発電,それを苦しめる怪獣が津波といったところでしょうか。まるで歯が立たないのは,恐らく想定外の力をもつ怪獣だったから。という関係で考えると,ウルトラマンはどういう位置づけになるのか。彼が浴びせる光線などは,科学技術というよりは,自然エネルギー。原子力エネルギーより自然のエネルギーのほうが勝るという暗示なのでしょうか…。
で,もう一つ気になるのが,それゆけアンパンマン。かたや近代科学を駆使したUFOに乗り,ロボットをも創造する科学者のばいきんまん。そのばいきんUFOを,あたかも科学の限界をあばくがごとくに「あんパ~ンチ」と一撃で吹き飛ばすアンパンマン。そのアンパンマンは,おなかを減らした人たちに自らのパワーの源である“顔”をも分け与えてしまう。これぞまさに“公共の福祉”。そういえば,彼らの世界,アンパンマンワールドは何とも自然エネルギーに満ちあふれた静かな世界。これって,科学を推し進めてきた近代国家に対する不信感の表れなのか,などと考えたくもなります。鉄腕アトム世代とは異なり,いわゆる若者の理科系離れの原因はこんなところにもあるのかも,とも…。
で,トルストイの『イワンのばか』。権威欲と金銭欲にとりつかれた二人の兄を持つ“ばか”なイワン。でもイワンのどこがばかなのでしょう。兄たちに利用されても何も言わずにそれを受け入れ,ひたすら畑仕事を続け,でも王様に。それでも畑で働き続け,賢い者は出て行って,イワンの国にはばかだけが残る。でも,お金はなくても,みなよく働き,食べられない者には食べさせてやる。そこに悪魔の親分が登場し,「手で働くよりも頭で働く」ほうがより多くの仕事ができるのだと,働かないで暮らせる方法を説明しだすのですが,ばかな国民には話の内容がわからず,それぞれの仕事に戻ってしまう。
今だったらトルストイ,科学者を登場させたのではないかと想像します。悪魔の親分が議員になって,科学者と一緒に,絶対安全な原子力発電所を作りませんかと持ち掛ける,てなエピソード…。科学を否定するつもりはありません。でも,科学を盲信してもね。そこで締めは,昨年の書評で取り上げられた『理性の限界』から。無知よりも知を求めてきた先進社会では「知識」が優先され,原水爆の製造までもが可能となったが,そこに権威主義の存在をみてとるファイヤアーベントに関するコメントで結びましょう。もし我々が「思考の自由」や「信念の自由」を本気で認めるのならば,科学よりも神話,科学よりも奇跡,科学よりも非科学を信じてもよい…。如何に科学が人類に貢献しているからといって,それを盲信するような姿勢は,もはや宗教と同じだ。
今必要なことは,何が正しいのか,何が間違っているかを,自分で考え,見分けようとする批判の精神,それと包容力のある柔軟な思索ということでしょう。
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