徹底分析シリーズ 冠攣縮
巻頭言
張 京浩
1
1東京大学医学部附属病院 麻酔科
pp.727
発行日 2013年8月1日
Published Date 2013/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101101884
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- 文献概要
冠攣縮の促進機転(副交感神経優位の状態で交感神経が活性化されると発症しやすい)は,まさに麻酔下の状況と共通している。さらに,この病態の診断の遅れは,たとえそれが一瞬のものであっても,心停止をまねき得る。したがって,この病態に精通することは,安全な周術期管理のために必須と言えよう。
ところで,山中先生のiPS細胞樹立の功績に対するノーベル賞受賞に触発されて,医学会において「日本発」がキーワードの一つになっているが,冠攣縮性狭心症は,日本の循環器内科医により確立された疾患概念で,日本発と言える。元来「狭心症は冠動脈に広範かつ器質的な狭窄があるために労作により発生する病態」という捉え方が世界の主流であった。それに対して,Prinzmetalが“異型狭心症variant form of angina”という病態があると報告したが,冠攣縮の臨床的側面を部分的に記載したにすぎず,注目されるには至らなかった。
そのような状況のなかで,狭心症患者の診断と治療に日夜懸命に取り組んでいた日本の循環器内科医は,1970年代以降,冠動脈の器質的狭窄では説明しきれない狭心症の病態を真摯に検討し,その診断,治療,分子機序も含めた病態解明に多大な功績を残した。そして,その貢献は現在も続いている。
かつて,日本循環器学会において泰江弘文先生の講演で以上の経緯を知り,急性期の循環管理に高い関心をもつ日本の麻酔科医にも,冠攣縮の病態生理を,その歴史的経緯を含めて紹介したいと考えてきた。今回,その願いをLiSA誌上で叶えることができた。麻酔科医の間で,「冠攣縮といえばLiSAのあの号」と記憶されることを願っている。
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