徹底分析シリーズ 静脈血栓塞栓症
巻頭言
黒岩 政之
1
1北里大学医学部 救命救急医学
pp.527
発行日 2013年6月1日
Published Date 2013/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101101837
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- 文献概要
わが国における静脈血栓塞栓症(VTE)の発症頻度は,過去20年で2倍以上も上昇している。そもそも周術期は,手術侵襲や術前術後のストレスによる凝固系の活性化,麻酔や術後の不動に伴う血流うっ滞など,VTEの危険に満ち溢れている。
麻酔科医は周術期の安全管理者として,VTE発症リスクの高い手術を知り,個人の有するリスク因子と合わせて,術前に正しくリスクを評価する必要がある。また,予防法の適切な使用およびその副作用を認識することで,患者の安全管理を行うとともに,予防による合併症を起こさないよう努めることも重要である。近年は抗凝固薬による予防が普及しつつあり,特に硬膜外血腫などの出血性合併症に注意することも,大切な役割の一つである。
一方で,VTEを発症した場合には,今度は危機管理者としての責務が求められる。症状や所見などから重症度を把握し,適切に治療をコーディネートすることが,予後に影響を与える。さらに近年は,VTEに対する意識の高まりもあり,術前から肺血栓塞栓症が疑われて診断された患者や,スクリーニングで深部静脈血栓症が発見された患者,あるいは過去の既往を有する患者の周術期管理に関して,診療依頼やコンサルトを受ける機会もしばしば見受けられる。
このようにVTEは,予防という安全管理と,診断治療という危機管理の両方に精通する麻酔科医の資質を生かすことのできる分野の一つである。
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