徹底分析シリーズ 周術期の凝固・線溶系の管理
周術期における血栓塞栓症と抗血小板・抗凝固療法―新規抗血栓薬と今後のブリッジング療法
中嶋 康文
1
,
小川 覚
1
,
溝部 俊樹
1
Yasufumi NAKAJIMA
1
,
Satoru OGAWA
1
,
Toshiki MIZOBE
1
1京都府立医科大学大学院医学研究科 麻酔科学
pp.240-246
発行日 2013年3月1日
Published Date 2013/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101101770
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地球上での動物進化の過程は,寒冷環境と食料獲得との戦いであったろう。したがって,動物は生存のため,比較的,高体温より低体温に順応してきたと考えることができる。止血凝固系における血小板が,あたかも血液内の温度受容器として働いているという説にもとづくと,軽度低体温で血小板機能が低下すると,内臓血管内凝固による重要臓器の梗塞を予防すると考えることができ,合理的な生理現象と考えられる1)。
一方で,体表血管に外傷が加わると,止血が必要となる。体深部温度より低い中等度低体温(32~28℃相当)以下の体表温度に血小板が曝露されると,血小板機能が活性化することも報告されており,これは,体表における止血に有利に働く可能性がある2)。血小板がもつ止血機能におけるこの二相性(軽度低体温で抑制系に,中等度低体温で活性系に働く)は,生命維持の観点から,合目的的な反応であると考えられる。
さらに,開放循環系から閉鎖循環系に動物が進化する過程で,より高圧循環系の止血に対応する必要があったため,ヒトでは単純な線溶系に比べ,止血凝固系がより複雑で綿密な制御系に発達したと考えられる。つまり,狩猟や農耕などで外傷を負った場合の出血性ショックを防止するための止血凝固系は,生命維持のための合理的なシステムとなる(コラム1)。
高齢やメタボリック症候群などの素因をもつ人が増え,手術侵襲による炎症系の亢進など,凝固・線溶系のバランスが過度に崩れる機会が増加し,抗血栓薬の投与が必要となることも多い今日の状況を鑑みると,時代の変遷に生物の進化が追いついていないように思える。
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