Japanese
English
綜説
神経細胞の興奮機構を分子レベルから
Molecular Basis of Nerve Cell Activity
大木 幸介
1
OHKI KOSUKE
1
1九州大学農学部生物物理学教室および医学部生理学教室
1Dept. Biophysics, Fac. Agriculture, and Dept. Physiology, Fac. Medicine, Kyushu University
pp.204-213
発行日 1961年10月15日
Published Date 1961/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425906201
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I.まえがき
神経の研究は動物,なかでも人体生理学の中心課題であつて,その集りである脳を解明することは"人間"の問題を解くカギといえよう。古く1780年のイタリアの医学者L.Galvaniによる生物電気の発見から,神経の研究は電気現象を中心に行われ,今世紀初めにはオッシログラフが使われるようになり,1940年頃には単一の神経線維をとり出して詳しい研究が行えるようになつた。この間1902年にドイツの生理学者J.Bernstein1)によつて神経の電気発生は細胞内に多いK+による電位が細胞膜を通して失われて生ずるという膜説が立てられたが,1952年に英国の生理学者A.L.HodgkinおよびA.F.Huxley2)3)4)は単一神経線維の詳しい研究から,神経の電気発生は細胞外に多いNa+の急激な流入によるのであり,Na+の多いことはNa+をくみ出すNaポンプが働いているとしてそれまでの電気現象をたくみに説明した。
このような電気生理学の成果の反面,神経は取りあつかいが難しく,他の細胞に比べて構造的,化学的研究が遅れていた。しかし1940年代の電子顕微鏡の発達,それにつづく組織化学の発展,これとならんで物質代謝の研究はつぎつぎに新しい面を開拓し,最近では神経の現象もやつと"分子レベル"で論じられるようになつた。しかも神経の集りである脳の働らきの一つ,記憶という現象まで論じられるようになつた。
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