研究室から
癌研究の生化学的立場
小野 哲生
1
1癌研究所化学研究室
pp.348
発行日 1958年10月15日
Published Date 1958/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425906042
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日本でも結核との戦に峠を越し,癌が死因の二位にのしあがつているが,癌に対する一般の関心がたかまつて来た。それにつれ近来癌の生化学的研究の陣容もかなりはなばなしくなつているのは喜ばしい。筆者が癌の生化学に志してからまだ日が浅いが,次第に癌の生化学的研究の困難さをひしひしと感じさせられている。
簡単に考えると癌は正常組織とかけはなれた特異的な性格を有するものであるから,生化学的に何を取りあげてもその特異性がうかがえるものと思われる。即ちWarburgが癌組織は好気的条件下でも著しい解糖を営むことを示して以来,生化学の進歩につれ各種の酵素系は癌細胞,組織についても検討され,新しく確認された酵素やその助酵素はときをうつさず,癌についてもその活性,含有量が測定され正常と比較されて来た。しかし今までのところ,Warburgの解糖に関する知見に匹敵する程の癌に普遍的な特性を主張出来るものはその後表われていない。時に癌の化学療法を追求している人々から,「癌の生化学をやつている連中はけしからん,はじめから癌と正常組織とは差がないものとして研究しているのではないか」と言つた意味のおしかりをいただいたりする。化学療法をやつている人々の仕事によると同じ肝癌でも各Strainで薬の効果がひどく違うし,まして各種の癌になるとある薬が効いたり,無効だつたり余りにも変化に富んでいる。
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