今月の主題 細胞膜
総説
細胞膜の構造と機能—生化学的立場から
岩森 正男
1
Masao IWAMORI
1
1東京大学医学部生化学
pp.659-669
発行日 1984年6月15日
Published Date 1984/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542912216
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
膜構造は細胞の基本的構成単位であることは言うまでもない.おそらく地球上に生命が誕生することになったきっかけも,膜構造の出現によるものと思われる.自己増殖能を持った原始細胞をはじめとして,人体を構成する複雑な機能を持った細胞のすべては,膜によって生命が維持されていると言っても過言ではなく,膜の理解は,すなわち生命現象の本質的理解にもつながると言える.
人体を構成する細胞の中でもっとも単純なものは赤血球であるが,その外壁となっている形質膜(細胞膜)の厚さは7.5nm,直径は,ほぼ8.6μmであるから,仮に1mmの厚さの薄膜でその形を作製すると,直径は1mにもなり,いかに薄い膜が巨大な細胞体を維持しているかがわかる.形質膜を例にとると,隔壁としての保護膜的役割の他,細胞内外へのイオンや物質の輸送をはじめ,レセプター分子を介しての刺激や情報の伝達など多岐にわたる反応が,このような薄い膜を介して行われている.また,細胞内の生化学反応の多くは膜構造を必要とし,酵素分子などの活性発現や,生合成と分解反応の秩序性,および情報伝達の方向性が膜構造によって維持されている.細胞が生命活動を維持するために備えている膜構造は,それぞれ厳密な役割分担を持った細胞内器官を構成している.
Copyright © 1984, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.