通信
外国で見たことの一つ
川喜田 愛郞
1
1千葉大学医学部細菌学教室
pp.103-104
発行日 1955年10月15日
Published Date 1955/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425905855
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WHO関係の仕事でエジプトに1年余り暮して帰つてきたのは昨年の夏のはじめですから,もう大分の時がたつのですが,機会がえられれば是非もう一度行つてみたいと思うほど執着のある国なので,本誌の編集部からエジプト滞在中の見聞を書いてほしいとたのまれたとき,あまり躊躇もせずにお引き受けしてしまいました。しかし考えてみると「生体の科学」誌にふさわしいような話題は残念ながらこの国には乏しいので,その代りに帰途の欧米旅行の印象の一つを記して責をふさぎたいと思います。
ロンドン滞在中の或る日,サウス・ケンシントンの自然科学博物館を訪れたことがあります。ここは御承知の方も多いと思いますが大英博物館の分館になつています。本館の方はわたくしの短い滞在中も再三訪れて,有名な聖書の写本(コーデクス・サイナイテイカス)とかロゼツタ石,パンテノンの彫刻等をはじめ,かずかずの逸品がわたくしを飽ぎさせなかつたのですが,おはずかしいながら自然科学博物館についてはあまりふかい予備知識をもつていませんでしたので,いよいよアメリカに向つて出発する2,3日前に格別の期待ももたずに漫然と足を向けた次第でした。仮にも医学と生物学の片隅に仕事場をもつている者の1人としてまことにお話にならない失態です。
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