綜説
蛋白質の變性
荒谷 眞平
1
1東京醫科齒科大學生化學教室
pp.57-65
発行日 1952年10月15日
Published Date 1952/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425905673
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
(1)
この論文で私は蛋白質の變性という問題が蛋白化學生物化學乃至は生物學に於て何故に興味あるものと考えられるかについて述べてみ度い。
物質の認識は人がその物に働きかけてゆくことによつて得られる。物を唯,眺めているだけでは本的質な知識はつかめない。例えば先ずその物を壞してみて,それがどんな素材から出來ているかを知らなければならない。次にもう少し緩和な力を作用させた時にその物がどんな變化を受けるかということをしらべれば,それがどんな風に組み立てられているかを推定する有力な手がかりを得るだろう。蛋白化學に於ても初期の研究は專ら加水分解によつて生ずる分解物の研究であつた。そして蛋白質はアミノ酸から主としてペプチッド結合によつてつくられていることが明かにされて後もう少し緩和な條件によつて惹き起される變性という現象が構造の問題と結びつけられて興味を持たれる樣になつたのである。1948年にBull1)が"Protein Structure"という表題で小論を書いているがその中の1/3〜1/2位もの頁を變性の問題にさいていることは上の樣な事情によるものと思われる。
Copyright © 1952, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.