巻頭
研究行政の反省
若林 勳
pp.1
発行日 1952年8月15日
Published Date 1952/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425905660
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我國科學研究の隆興は一に國家經濟の復奮をまたなければならないともいうが,現在の不自由は不自由なりに研究を進めなければならない。走らない自轉車が倒れるように研究者が杜絶えれば科學は亡びるであろう。研究行政という言葉があるかどうか不明であるが,現日本の科學研究に於ける二三の行政的な問題──科學研究費の配分と研究所の整備とについて少しく反省を試みよう。
總額に於て乏しい國の科學研究費──それが他の國費といかなるバランスにあるかはしばらく論外に措き──これをいかに配分するかは重要な問題である。文部省から交附される各種の研究費の配分法には色々の批評もあるが,其趣旨は重點主義と見られる。個人研究費配分にもこの線が強化されると聞く。從つて其詮衡の困難さは思い遣られる。勿論選ばれた有識者の合議によることで其研究價値を定める天秤の精度は餘程高いものと思うが不幸その選に洩れる有能の學者も幾人かは出來るであろう。併し彼等に最低の研究費が與えられておればそれはそれなりに研究を進めるであろうが,もしもその基礎額さえも缺けるならば甚だ同情す可き境遇に置かれることとなる。學界に認められて研究費を交附せられることは結構であるが,研究費の交付を念頭に置いて學界に認められようと努力するような努力は,學界百年のために慶す可きではあるまい。
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