談話
器宮の除去及移植と生理(Ⅱ)
梅谷 與七郞
1
1農林省蠶絲試驗場
pp.263-265
発行日 1951年6月15日
Published Date 1951/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425905588
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次に私は卵巣移植實驗によつて化性が宿主の體内で前決定されること,未だ受精が行われない卵母細胞が胚子發育を支配する事實,またこの方面の數多い實驗的觀察から,胚子發育に關して私は次の説を立てた。少くとも蠶のような卵細胞質の多い休眠胚子の發育は卵細胞質の生化學的な活不活の環壞に支配される現象であると説いた(1929〜37)。今まで胚子發生を胚子に主體をおいていた考え方から見たら全く逆説である。即ち胚子が越年卵となつて休眠するのはそれを育てる卵細胞質の生化學的作用,例えぼ可溶性の養分を胚子に與える作用が除々に中斷されるから間接的に胚子が休眠を強いられるための現象であり,不越年卵となるのはかかる生化學的作用が産卵當時の活性を持續し,絶えず可溶性の養分を胚子に給與するから一定期間(約2週間)内に孵化するに至る。翌春休眠が破れて胚子が再發育するのは冬期間の低温が刺戟となつて卵細胞質が生化學的活動を始めるためである。又人工孵化法の可能なる所以はこの浸酸刺戟によつて,生化學的活性状態をこのまゝ持續せしめる手段に外ならない。もしこれが事實とするならば如何に固たい休眠状態にある越年卵でも,人爲的に卵細胞質を活性化せしめれば胚子は常に發育を始めなければならない。これらについて多くの實驗を行い如何なる時期の越年卵でも活性化せしめ胚子を發育せしめるに成功した。
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