談話
器官の除去及移植と生理(1)
梅谷 與七郞
1
1農林省蠶絲試驗場
pp.209-212
発行日 1951年4月15日
Published Date 1951/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425905577
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私が昆虫における器官の除去や移植の實驗を始めてから早や30年も經過し,今日なおこの方面の研究を續けているので,これを一々ここで述べることは時間が許さない。それでその中主なる事項について所信をひれきしたいと思う。大體私は學會で自らえた結果を公表することを唯一のたのしみにてそれを毎年實行してきたが,綜合的にまとめて長時間講演したことがなく,又面倒くさくつて氣も進まなかつた。この生機學會でも橋田先生が御存命中何かやれと若林教授などに勸められていたが,前記の理由で氣が進まず今日に至つたが先日若林氏からもうやつてもよいでしようと勸められ,ここに立つたわけですが決して勿體ぶつたわけではありませぬ。
私は多年遺傳子が形質を發現する上に,染色體萬能論者が主張するようなGene→Charakterの直結した考え方に飽き足らず,今日までGeneを育てる細胞質のダイナミツクな作用を信じ,前記の直結したGapを細胞質でうめてこそ初めて形質發現の過程が判然すると信じてこの方面の努力を續けてきた。最近ソ聯のLYSENCOの爆彈的意見即ち形質發現にGeneを輕視或は否定し,環境を主とする説は行きすぎであつたかも知れないが,少くとも痛い處に觸わられた感じを與え,それだけに斯界に大波紋をまき起させるに至つた。私も日頃主張してきた細胞質の役割に對して漸く一般が注目するようになり,少くとも私にとつては我が時來れりの感じを與えている。
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