展望
回顧と展望—我が解剖學界に於ける發生學の研究動向について
鈴木 重武
1
1千葉醫科大學解剖學教室
pp.190-196
発行日 1951年4月15日
Published Date 1951/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425905574
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Ⅰ
この頃私共の手許にも,到底戰前の比ではないとしても,とにかく幾種類かの歐米の專門雜誌が見られる樣になつた。書棚を見ると戰前のこれらの雜誌の最終は大體1941年頃であるから,歐米の學界との交渉再開はかれこれ10年振のことである。つまり過去約10年間我が國の學界は全然世界の學界から隔離されて,恰も胚子から切り離されて外植されたその1部分が,その時それ自身に内在している發生能のみによる發生換言すれば自律分化をつゞけるように,その時持つていた能力をもとでに自力のみで今日の状態まで漕ぎ付けたが,昨今を轉回點として再び世界の學界の影響下に復歸せんとしつつあるわけである。
從つて私はこの機會に於て自ら專攻する解剖學の1部門である發生學の我が國に於ける現在の研究動向を考察することは決して意義のない事ではないと信ずる。そして現在の動向は當然過去の研究を無視しては考えられないから,結局わが解剖學會設立以來の發生學研究の變遷を一瞥し次で現状を展望してその研究動向を明にしたいと思う。資料としては日本解剖學會第1乃至第55回總會の研究發表の演題並びに學術會議の昭和16乃至24年の「現行研究題目」を用いた。これは唯々各時期の代表的な研究題目,方法等を簡單に知るに好都合と考えたからに過ぎない。周知のように元來研究動向を捕捉することは甚だ難しく,稍もすれば當を失し勝である。
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