研究報告
炎性浸潤と線維—特に膠原線維の態度に就て
新井 恒人
1
1和歌山医大病理学教室
pp.298-300
発行日 1950年6月15日
Published Date 1950/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425905516
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まえがき
從來線維の生成に就いては,それの細胞原形質から成立を主張する細胞体生成説と,胞体とは直接の連絡無しに,細胞間物質乃至基質内に生成されるとする細胞間質生成説とが対立するが,1)近時後者の見解が廣く行われる傾向があり,2),3),4)我國に於ても特に病理学の領域に其の研究が見られ,3),5),6),7),8)筆者9)も細胞間質生成説の立場から,主として実驗的生成に就いて論じた.此の場合一般に細胞自身は酵素物質を分泌して,間接的に生成に関與するものと考えられて居るが,其の関與する細胞の種類を限定する事は甚だ困難で,例えば線維芽細胞は疑無く其の能力を有すると考えられるが,併し線維芽細胞という名称の中に,如何なる細胞を包含させてよいかは,嚴密に考えれば極めて複雜且困難な問題で,現在の細胞学的見地からは不可能に近いのではなかろうか.筆者は炎症性浸潤に際して,浸潤細胞が既存線維にどのように作用するかを追求し,逆説的に此の点を考察すると共に,滲出液の及ぼす影響にも若干触れる.
炎症竇に於ける細胞浸潤が一定の基本形式を有する事実は,以前から超生体皮下結合織伸展観察法により詳細に研究されて居り(天野,10)新保,11)),筆者12)も若干研究に從事した.即,炎症竇に於ける浸潤細胞は,時間の経過と共に次々と消長するものであるから,其の時間的の追求によつて,或る浸潤細胞の局所の線維に及ぼす影響を,随時把握する事が可能となるのである.
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