話題
Na-ポンプの酵素学
福島 義博
1,2
,
篠原 康雄
3
Yoshihiro Fukushima
1,2
,
Yasuo Shinohara
3
1生理学研究所能動輸送部門
2現:国立小児病院小児医療研究センター
3徳島大学薬学部
pp.155-158
発行日 1988年4月15日
Published Date 1988/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425905120
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I.核酸からのアプローチ
最近の多くの酵素研究がそうであるように,Na-ポンプを(Na,K)-ATPaseとして見る酵素学においても,遺伝子からのアプローチが幾つかの重要な発展をもたらした。(Na,K)-ATPaseのαおよびβ両サブユニットの一次構造が,cDNAから求められた(1985〜1986)ことはすでに周知と思われるので,ここでは触れない。その後現在までの短期間に,筋書きどおりの進展があるのは,いったんプローブとDNAライブラリーが得られれば,後は人海戦術でカバーできるという面が強いからだろう。まず,分子量の異なるイソ型(α+)の存在が知られている脳が,当然,解析の対象となった1,2)。そして,αとα+のみならず,蛋白質としては従来知られていなかったもう一つのイソ型の存在が示され,αⅢと名ずけられた1,2)。これなどは,核酸からのアプローチの有効性を示す顕著な例である。αⅢは,α-N末端に相当する9残基が欠損しており,ラット脳αとαⅢのホモロジーは,85.3%である。
続いて,ヒト胎盤と白血球の染色体DNAでは,α,α+,およびαⅢの他に,蛋白未確認のさらに二つの遺伝子がα-鎖プローブと交叉すると報告されている3,4)。これらが(Na,K)-ATPaseのサブユニット遺伝子なのか,極似の他のATPaseが存在するのかは,今後の課題である。
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