特集 神経伝達物質の同定
特集「神経伝達物質の同定」によせて
片岡 喜由
1
1愛媛大学医学部生理学教室
pp.66
発行日 1979年4月15日
Published Date 1979/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425903305
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神経の化学伝達説(Elliott, 1904)の黎明から今年はちょうど四分の三世紀になる。多くの先人の業績と,それに基づいて作られてきた概念をたどるとき,伝達物質の研究が予測以上にむつかしく,また神経機能の理解にいかに基本的に,かつ広くかかわっているかが浮き彫りにされてくる。
現在までにも少なからざる物質が伝達物質候補として登場し,それらがどこでどのような動態と作用を示すかを具体的な実験的規準に則して明らかにする形で作業がなされてきた。いわば伝達物質同定のプロトコールである。近年の科学技術の飛躍的な発展に伴って,それぞれの規準──存在・作用・放出・不活性化・受容器──の内容が厳密になり,実験的概念の細分化や変遷がもたらされている。その結果として一見すべての規準を満足しているように思われた物質でも,特定の部位について吟味してみると,伝達物質と断定しきれない未解答の部分が残されている例が多いことに気づく。よく研究されている大脳皮質のアセチルコリンについても,それを含むニューロンの同定すらなされていないし,シナプス前部と受容器側の指標の量的矛盾は著しい。構築の複雑な中枢では今後の技術的なbreakthroughに期待するとしても,道の険しさは想像に余るものであろう。一方ニューロンが発生・分化の過程で伝達物質の選択性をどのようにして獲得していくかの基本的命題はようやく解明の緒についたばかりである。
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