巻頭言
境界領域での研究について
菊地 吾郎
1
1東北大学
pp.209
発行日 1965年10月15日
Published Date 1965/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425902641
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物理学や化学にくらべると,生物科学の領域はいかにも広大である。医学,農学なども広い意味では生物科学であるから,まさに広大無辺であり,研究の対象も方法も随分かけはなれたものが共存している。いわば生物科学の研究者は,まことに大きな自由度を持つた世界に住んでいることになる。
自由度が大きいことは,それだけ研究者に独創的な研究の可能性が約束されていることであるが,反面では,その自由度があまりに大きいために,生物科学はまだ一つの原則によつて統一された学問体系にはなつていないきらいがある。言うまでもなく,生物科学が本当にその名前にふさわしいものになるためには,各分野での研究ができるだけ早く共通の原則によつて綜合され,どの分野でも共通の評価の尺度が通用するようになることが望ましいのであるが,現在の段階では,実際に研究の現場に立つて,当面する研究を主体的に自己評価しながら進めて行く場合には,必ず,個別と一般,というむずかしい問題に突き当る。たとえば基礎医学と臨床医学にしても,それらが立つているイデオロギーは必ずしも質的に同じではないし,また生化学と生物学は最近接近したとは言つても,その間にはやはり相当の距離があるのが実情である。特に境界領域に属する仕事の評価ということになると,個人個人の生物学的あるいは生化学的関心の度合によつて,各人各様の物差しを勝手に振りまわしているようなところがある。
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