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特集 脳を守る21世紀生命科学の展望
精神疾患の克服
Towards conquering psychiatric disorders
西川 徹
1,2
Toru Nishikawa
1,2
1東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科精神行動医科学
2国立精神・神経センター神経研究所疾病研究第三部
pp.68-73
発行日 2000年2月15日
Published Date 2000/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425902467
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精神疾患は,精神分裂病(分裂病),気分障害(感情障害,躁うつ病),不安障害(ストレス性の精神障害を含む),睡眠・生体リズム障害,薬物・アルコール依存をはじめとする物質関連障害などに代表される。生物学的マーカーに乏しい精神機能の障害を含むだけに,いまだ原因不明であるばかりでなく分類においても困難な問題を抱えている。患者数が極めて多く,分裂病だけでもおよそ1000人に8人の高率で発症し,国内で20万人以上が入院を余儀なくされている事実に象徴されるように,速やかな原因究明と治療法開発を迫られている。
不思議なことに,精神疾患は神経変性疾患と異なって,脳の障害でありながら現在の技術レベルでは脳にその形態的痕跡を探すことが難しい。これは精神疾患の生物学的確定診断を妨げ解明を後らせている最大要因のひとつであると同時に,精神疾患と神経変性疾患とでは,脳の障害の原理が全く異なることを示唆している。精神疾患の治療薬や精神異常発現薬が,様々な神経のシナプス伝達に直接影響することが知られるようになり,精神疾患では一般に,シナプスを中心とした神経情報処理過程を実行および調節する分子カスケードに異常が生じていると考えられている。神経変性疾患の原理である細胞死や細胞変性に対して「細胞変調」と呼べるかもしれない。
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