特集 現代医学・生物学の仮説・学説
5.神経科学
神経回路網理論
甘利 俊一
1
1東京大学工学部計数工学科
pp.562-563
発行日 1993年10月15日
Published Date 1993/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425900645
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概説
脳のはたらきを理論的に理解しようとする試みは,McCullochとPitts(1943)による形式ニューロンのモデル化と,形式ニューロン回路がチューリング機械に示される計算万能性を有していることの指摘に始まる。この研究は情報科学の成立に大きな影響を与えたものの,脳の神経回路の研究に直ちに結びつかなかった。
Rosenblattのパーセプトロン(1959)は,可塑性をもつニューロンモデルを用い,学習能力のあるパターン認識機構をモデル化して回路網を構成した。これは学習機構を工学の世界に導入したもので,1960年代の前半にこうしたモデルの研究がきわめて盛んになった。しかしMinsky-Papertの指摘(1968)をまつまでもなく,その能力は限られたものであり,研究は下火になっていた。しかしMarrはパーセプトロンの仕組みを小脳皮質の回路のアーキテクチャと比較し,小脳の情報処理の様式と学習機構とを予想した(小脳パーセプトロン説)。これは伊藤らの研究の道を拓き,プルキンエ細胞における長期減弱(1980)の発見に結びついた。
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