特集 現代医学・生物学の仮説・学説
2.分子生物・遺伝学
細胞質遺伝
髙畑 尚之
1
1総合研究大学院大学生命科学研究科
pp.482-483
発行日 1993年10月15日
Published Date 1993/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425900616
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概説
メンデル遺伝の法則(1865年)をド・フリース,コレンス,チェルマックの3人が独立に再発見し,広く世に伝えたのは1900年のことである。コレンスは,また数年後に植物の斑入りの実験から非メンデル性遺伝因子の発見をしているので,細胞質遺伝の歴史は,メンデル遺伝の歴史とほぼ同程度に古い。しかし,クロロプラスト内のDNAが検出されたのはずっと新しく,60年代になってからである。
細胞質遺伝を示す形質は,雌配偶子特異的に発現する核遺伝子によることがある。この発現特異性は,両親由来の染色体を区別しないので,影響が長く後代まで及ぶことはない。これに反して,細胞内に共生するウイルスやスピロヘータは何世代にもわたり細胞質伝達をする。ソネボーンによって研究されたゾウリムシのカッパ粒子は,細胞質中の細菌である。このような共生関係がさらに進んだ形態が,高等動植物の細胞内小器官であるクロロプラスト(ch)やミトコンドリア(mt)である。共生説の考えは古いが,科学的仮説として受け入れられるようになったのは比較的新しい。
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