特集 現代医学・生物学の仮説・学説
1.細胞生物学
細胞極性
山科 正平
1
1北里大学医学部解剖学教室
pp.430-431
発行日 1993年10月15日
Published Date 1993/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425900598
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概説
細胞の極性(cellular polarity)という概念は必ずしも明瞭には定義されていないが,一般には細胞の形態や構造が細胞の機能軸と合致した非対称性をもつという現象を極性とよんでいる。これは高度に組織化された上皮細胞や神経細胞でとくに顕著に認められる。上皮細胞はその一面で基底膜や隣接細胞と接着し,そこを経由して細胞相互あるいは結合組織側と物質の移動が行われるのに対し,反対側は自由表面として外界に直面させて外界との相互作用が営まれている。つまり細胞膜はtight junctionにより基底面と自由表面との大きく二つのdomainに区分され,それぞれの領域に分布する酵素をはじめとする膜蛋白は完全に異なり,両者が混じり合うことはない。また細胞内の小器官も核をはさんで基底側と自由表面側では大きく異なった分布をしている。神経細胞では細胞体をはさんで一方に樹状突起,反対側に軸索をもち,その方向にそって情報の伝導が行われている。
細胞極性には,細胞小器官の非対称的な配置(細胞質極性cytoplasmic polarity)と細胞膜の局所的な不均一性(表面極性surface polarity)との二つの側面があるが,細胞内で合成された物質の方向性をもった輸送という観点から一元的にとらえる方向で研究が進められている。
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