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酵素は様々な化学反応を促進し,生物学的プロセスを調節することで,生命の維持に欠かせない重要な役割を果たしている。酵素の多くは,その活性中心にZn,Mg,Fe,Mnのような第一列の遷移金属を有しており,これらの遷移金属はLewis酸や酸化還元中心として機能している。一方で,有機合成化学で使用される遷移金属は,Pd,Ru,Rh,Ir,またはAuなど,自然界ではあまり採用されてこなかったものを含んでおり,様々な非天然化学変換反応が開発されてきた。これらの非天然化学変換反応は,化学物質や医薬品の合成において不可欠であり,合成金属触媒の重要性はますます増している。
これらの合成金属触媒が,酵素と同じように細胞・生体内で利用可能となれば非常に魅力的である。なぜならば,薬剤のその場合成が可能となり,副作用の低い治療法となる可能性を秘めているためである。一方で,合成金属触媒を細胞や生体内で活用することは次の理由から容易ではない。①通常,合成金属触媒は有機溶媒中で使用されるが,細胞や生体内は水系環境である,②細胞・生体内は合成金属触媒を失活させるチオール,アミン類など多種多様な分子の存在する夾雑環境であるためである。しかし,多くの研究者の貢献によって,合成金属触媒による細胞内での非天然化学変換による生体分子の検出,薬物の局所的活性化,遺伝子発現誘導など,細胞・生体機能制御が実現され始めている。ただし,細胞・生体内に取り込まれた基質・生成物,触媒量を明確に定義することが難しいため,収率や触媒回転数など反応効率に関する定量的なデータが得られないことが多い。したがって,反応が触媒的か化学量論的かの議論には注意が必要である。
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