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細胞は細胞膜上にあるレセプター(受容体)を介して,自身を取り巻く環境から様々なシグナルを受け取り,これらシグナルに応じて適切な細胞応答を引き起こす。このようなレセプターの一つに上皮成長因子受容体(EGFR)があり,最も初期に同定されたチロシンキナーゼ型受容体ファミリーの一つである。細胞膜上でEGFリガンドにより活性化されたEGFRは,下流シグナル経路を活性化し細胞の増殖や分化,遊走などに重要な役割を果たしている。このとき,活性化したEGFRはエンドサイトーシスによって速やかに細胞内に取り込まれ,細胞内小器官エンドソームを経てリソソームに送られ分解される(図1)。この過程はEGFRシグナルのダウンレギュレーションに必須の過程である。過剰なEGFRシグナルが細胞のがん化につながることから,細胞内トラフィックを介したEGFRシグナルの制御機構は臨床的にも注目されてきた。近年の蛍光ライブイメージング技術や超解像顕微鏡技術を駆使した解析から,これまで考えられていた以上に,EGFRシグナルが細胞内トラフィックによって巧妙に制御されていることが明らかとなってきた。細胞膜上で活性化したEGFRは,秒単位で細胞内に取り込まれ,その後,分から時間単位で細胞内を渡り歩く。つまりEGFRのライフタイムのほとんどが細胞内であることを考えると,EGFRシグナルの制御に細胞内トラフィックが重要なのは当然のことではないだろうか。
本稿では,最近明らかとなってきたエンドソームがEGFRシグナルをアナログからデジタルに変換するしくみや,細胞を過剰なシグナルから守り,かつ生理的に意味のある微弱なシグナルを拾い上げるしくみ,また他のオルガネラ(小胞体)とのコミュニケーションを介してEGFRシグナルを制御するしくみ,について概説する。
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