特集 カルシウムイオン受容タンパク
特集「カルシウムイオン受容タンパク」によせて
垣内 史朗
1
Shiro Kakiuchi
1
1大阪大学医学部
pp.366
発行日 1980年10月15日
Published Date 1980/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425903409
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現在カルシウムイオン(Ca2+)は,あらゆる種類の細胞において,種々の基本的な生命現象の調節に与っているものと信じられている。表1にその一端を示すが,この中で最も研究の歴史が古く,Ca2+による細胞機能調節の先鞭をつけることになったのは,骨格筋の場合である。いま,その先駆者である江橋の辿った道を読みなおして1),十年余の昔に繰りひろげられた1つのドラマ,中でもCa2+説の呈出とそれに対する猛烈な批判,そしてそれをこえて遂にトロポニンの発見2)に至る物語りに,感動を禁じ得ない。その中で,当時の代表的生化学者の意見として,(Ca2+説は)だいたい正しいのかもしれない。だけど,私はCa2+は好きではない」というのを,江橋は淡々と述べている。しかしこの状況は,そのCa2+受容蛋白であるトロポニンの発見と共に一変した。トロポニンの発見以後,この分野がいかに多くの優秀な研究者を魅了し,引き付けることになったかは,今日皆のよく知るところである。そしてその結果,現在,筋収縮の調節機構が,分子のレベルで語られるに至ったのである。
今日,研究者の関心は,ようやく骨格筋,心筋を越えて,表1に示すような非筋肉組織一般におけるCa2+の問題に移りつつある。そしてそこに至る1つの関門として,平滑筋もまた最近クローズアップされている。
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