--------------------
あとがき
栗原 裕基
pp.286
発行日 2018年6月15日
Published Date 2018/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425200812
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
「故二柱の神,天の浮橋に立たして,其の沼矛を指し下して畫かせば,鹽こをろこをろに畫き鳴して引き上ぐる時に,其の矛の末より垂り落つる鹽の累積なり島と成る」
古事記冒頭の天地開闢神話のように,原初の地球のどこかで,自然の力が揮った矛から脂質二重膜のつくる液滴が垂り落ちて細胞が生まれたのかもしれない。混沌から秩序が生まれたその瞬間から,生体膜構造はさまざまな機能を細胞に賦与しながら現在まで連綿と受け継がれてきた。学生時代に読んだ香川靖雄先生の著書「生体膜と生体エネルギー」を今改めて繙くと,序文には「生体膜は未知の分野であり,ここに生命現象の解明の鍵がひそんでいる」と書かれ,本の最後は非平衡が動的秩序発生の原動力とするIlya Prigogineの「散逸構造理論」の紹介で結ばれている。生体膜による自己の区画化による生命の独立と生体膜を介したエネルギー変換構造の発展は,まさにPrigogineの「混沌からの秩序」形成の過程といえるが,多くは未だ謎に包まれ未知の領域は宇宙のように膨張し続けている。40年前の問題提起と方向性は今も変わることはない。
Copyright © 2018, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.