--------------------
あとがき
栗原 裕基
pp.282
発行日 2017年6月15日
Published Date 2017/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425200628
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
かつて東西冷戦の終焉とともに平和へ向かうかと思われた世界は,その後多くの民族問題や宗教対立などによって益々混迷を極めています。地球上の局所的な出来事が世界の各地に影響を及ぼし,それぞれが絡み合って複雑な情勢を作り出していることも現代の特徴と言えるでしょう。今回の特集では転写をはじめとする核内イベントのダイナミクスがテーマになっていますが,個別の遺伝子領域内に留まらず,染色体上で離れた領域が,相互作用しながら遺伝子発現の動態がダイナミックに変化していく様子は,地球上で起きていることとどこか似ているように思えてなりません。生命のすばらしさは,細胞内の遺伝子制御,さらには細胞間の相互作用による個体発生など,多様で複雑な様相を呈しながらも予定調和的に精緻な秩序を作り出すところにあります。ウイルスや細菌などの感染でさえも,時には死をもたらす厄介な存在でありながらも,進化の長い目で見ると,生物に新しい機能と秩序を加えてより高等な生物へと進化する原動力ともなってきました。カオスに向かうかに見えるこれからの国際社会にも,一個の細胞核と同様に,より高度な秩序と平和が生まれることを願いたいものです。
最後に,ゲストエディターの労をお執りいただいた秋光信佳先生,和田洋一郎先生,ご多忙の中執筆していただいた著者の皆様に感謝申し上げます。
Copyright © 2017, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.