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軟骨など一部の臓器を除き,ほぼすべての臓器・組織は動静脈により閉鎖系の血流路が展開され,組織細胞は細動脈から分岐した毛細血管から酸素や養分の供給を受けている。毛細血管から透過した酸素や養分は,組織の硬度,粘性などにも影響されるが,おおよそ50μmの距離までしか拡散せず,そのため非常に血管密度の高い毛細血管網が全身で構築される。毛細血管から続く細静脈は,体内異物を認知した白血球が組織へ侵入する扉として機能し,速やかな炎症の終息にかかわる。また,近年,血管の新たな機能として,いわゆる血管内皮細胞から分泌される分子が,近接細胞の生存や維持を誘導する,いわゆるangiocrine signalの組織構築や維持における重要性が示されてきた。つまり,血管は様々な機能により,個体の恒常性維持において非常に重要な役割を果たしていると言える。
胎児期に生じる血管形成は脈管形成と呼ばれ,中胚葉細胞からの血管内皮細胞の分化,内皮細胞による管腔形成,そして血管平滑筋細胞やペリサイトといった壁細胞の内皮細胞の裏打ちによって,安定した構造の血管が形成される。血管が形成されたのちに新しく血管が必要になると,新しい血管が既存血管から分岐し,伸長して新規の血管が形成される。この過程は血管新生と呼ばれ,炎症や創傷治癒などの組織再構築や,がんや網膜症といった様々な血管病で誘導される。正常組織では,血管内皮細胞同士の接着や,壁細胞と内皮細胞の接着が誘導されて透過性の制御された血管が誘導されるが,慢性炎症部位やがん組織では,内皮細胞同士の接着がルーズで,壁細胞が内皮細胞を裏打ちせずに未成熟な血管形成が持続している。これが血管透過性の亢進を招き,がんにおいては,低酸素の持続によるがん細胞の悪性化,組織間質圧の亢進による薬剤送達性の低下,pHの低下による放射線療法に対する抵抗性の獲得,がん細胞の血管内移送によるがんの転移などの原因となっている。腫瘍内の血管を正常化すると,薬剤送達性が改善し,放射線療法にも感受性が生じ,また転移も抑制されるということが判明してきている。このように,未成熟な血管を成熟な血管に誘導することは,がんや慢性炎症などの治療法の開発にも応用されると考えられ,また再生医療において,機能的な臓器の構築には必須であると考えられる。本稿では,未成熟な血管がいかに成熟化していくのか,特に血管新生過程において,血管内皮細胞に発現する二つの受容体Tie2,APJの観点から解説する。
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