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あとがき
岡本 仁
pp.94
発行日 2017年2月15日
Published Date 2017/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425200583
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人間が,意識,論理的推論,言語,共感などといった,人間に特有と思われている心の機能を持っているのは,おそらく大脳皮質の高度な発達によっている。このような機能は,人の大脳皮質が,他の動物の大脳皮質と比べて質的に全く新しい構造を獲得したために生まれたのだろうか? もしそうだとすれば,人間と霊長類の遺伝子を調べて,その違いに,人の心の誕生の起源を突き止められるかもしれない。一方で,脳の階層的構造が進化に伴って連続的に多層化し,人間の段階にいたって初めて,おそらくその多層的階層構造に起因する非線形性の相乗効果によって複雑な思考が可能となった可能性も考えられる。この場合,遺伝子の質的な違いを追い求めても答えは見つからないかもしれない。世界では,このような二つの仮説がどちらも真剣に検討されている。今回の特集から,読者の皆さまにも,日本の大脳皮質研究者の層の厚さと質の高さを改めて感じていただけたのではないだろうか。今後これら本特集号の筆者の方々の研究の発展によって,二つの仮説の答え,即ち人間の心がどのように生まれたのかへの答えが見つかることが期待される。さらに,タイムリーなことに,理研の濱,宮脇先生らに,世界に先駆けて開発された組織透明化法と,その最近の発展について詳細な総説を執筆していただけた。この技術は,今後の大脳皮質研究にも欠くことができない。加えて,松井先生に,老化研究の新しいモデル動物として有望な,世界で2番目に短命な脊椎動物であるアフリカメダカについて,西谷先生に,ゼブラフィッシュを使った薬剤スクリーニングに関して,いずれも力のこもった総説をお願いできた。執筆者の諸先生方に深く感謝いたします。
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