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神経細胞以上に脳内を広く覆う膠状細胞群を,かつてまとめてNeurogliaと呼んだのは病理学者のRudolf Virchow(1856)とされているが,既にその20年前にRobert Remak(1836)が神経細胞の軸索を取り巻く細胞(後のオリゴデンドロサイト)に関しラテン語で発表している。およそ180年前のことである。
1895年にはMichael von Lenhossékがastrocyteを命名し,Pío del Río Hortegaは1919年にmicroglia,1921年にはoligodendrocyteをスペイン語で記述した。ようやくグリア細胞の個性が明確になったわけである。また,病態時のグリア細胞の関与についても,1910年にはAlois Alzheimerが彼の著書で触れている。一方,日本人のグリア研究への貢献もかなり古くからあり,例えば,化学発癌で世界的に著名な山極勝三郎は,1891年から4年間Virchow研究室に留学し,Neurogliaの染色法について成果を挙げた。また,中井準之助は,文部省の研究費を得て研究班を組織し,1957年から3年間グリアに関する形態学研究を行い,その成果を単行本として医学書院から出版している(1962)。今,その本(実は,先年,Helmut Kettenmannから寄贈されたものであり,そのとき初めてわが国の先達のすばらしい研究を知った)を読み返してみると,「神経細胞よりも遙かに大容量を占めているグリアについて,その機能や形態について研究する必要がある」と述べられており,これはこのまま現代にも通じる。更に,1970年代に中田瑞穂がNeuro-gliologyという学問領域を提唱したように,グリアと神経系が極めて緊密な情報連絡をしながら脳機能を維持し発揮させていることを中心に,われわれも多くの研究成果を世界に発信してきた。それらについては,本特集号の各論に詳述されているが,国内研究の充実は1998-2001年度の特定領域研究「グリア細胞による神経伝達調節機構の解明」(総括代表:池中一裕),2003-2007年度の特定領域研究「グリア-ニューロン回路網による情報処理機構の解明」(総括代表:工藤佳久)に拠るところが大きい。これらの研究では,gliotransmittersを同定し,それらが神経回路機能を積極的に調節していることを明らかにした。
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