- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
生物は環境に適応して生存するために,さまざまな物理的・化学的刺激を情報として感知して,その情報をもとに反応している.力学的刺激(機械的刺激)も環境に適応するために必要な情報の1つであり,生物の発生や成長過程,生理的機能の維持,組織損傷からの回復過程にも力学的刺激がかかわっている.力学的刺激に対する細胞や組織の反応を研究する領域をメカノバイオロジー(mechanobiology)と呼び,生理学,生物物理学,細胞生物学,生体力学,組織工学,再生医学などの分野において研究が行われている1〜3).メカノバイオロジーの知見をもとに力学的刺激をコントロールして治療に適用することをメカノセラピー(mechanotherapy)と呼ぶ2〜6).
理学療法は,身体に統制された非特異的な物理的刺激を与え,その物理的刺激に対する生体反応を治療に応用する技術と考えることができる.そのため,柔軟性改善のためのストレッチング,筋力増強運動における抵抗運動,徒手療法,装具療法,テーピング,牽引療法,超音波療法などの力を媒介とする理学療法はすべてメカノセラピーとして捉えることも可能である4,7).メカノバイオロジーの知見は,理学療法として対象者に与えている力学的刺激が細胞のレベルでどのような反応を引き起こし,機能改善に作用しているかを解き明かしてくれる.そのため,理学療法の基礎理論を構築し,損傷治癒や再生医療に理学療法を適切に適用していくためにもメカノバイオロジーの知見は有用である3〜5,7).本稿では,理学療法と関連するメカノバイオロジーの基礎的な知見を紹介し,それらの応用として理学療法を捉える立場からメカノセラピーと理学療法の関連性について述べる.
Copyright © 2022, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.