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■ロドプシンとGタンパク質
ヒトをはじめとする高等動物の網膜中には,ロドプシンと呼ばれる7回膜貫通型構造を持つ光受容膜タンパク質が存在する1)。このロドプシンはビタミンAの誘導体である11-cisレチナールと呼ばれる色素をタンパク質内部に結合している。そしてレチナールが可視光を吸収するとall-trans型へと異性化し,それをトリガーとしてタンパク質全体の構造が大きく変化し,活性型のロドプシンへと変化する。活性化したロドプシンは同じ視細胞中に存在するヘテロ三量体Gタンパク質の一種であるトランスデューシン(Gt)のGDP/GTP交換反応を誘起し,GTPが結合したGtは更に別のタンパク質群へシグナルを伝達することで,最終的に視細胞が過分極し,視覚シグナルを電気信号として脳へと伝える。
ロドプシンはGタンパク質共役型受容体(GPCR)と呼ばれる細胞外からの化学的な刺激物質を受容する膜タンパク質のファミリーに属する。多くのGPCRはホルモンやペプチド,味や匂いなどの元になる物質をリガンドとして結合し,それに応答して細胞膜中にあるGタンパク質を活性化する。Gタンパク質にはGt以外にも,Gs,Gi,Gq,Go,G12/13など様々な種類が存在しており,数百種類のGPCRが様々なリガンドを結合し,これらのGタンパク質を活性化することで,外界の変化に対する多様な細胞の応答が引き起こされる。一方で近年では光で細胞の生理活動を制御する光遺伝学(Optogenetics)分野の発展と共に,Gタンパク質がかかわる信号伝達カスケードを光で制御する技術の開発が求められている。このために最近ロドプシンの細胞質ループを異なるGPCRのものに組み替えたOptoXRと呼ばれる分子を用いることで,細胞内の本来ロドプシンが活性化できないタイプのGタンパク質を光活性化することが可能であることが報告された2)。しかしロドプシンは一度光を照射すると,レチナールがタンパク質から解離してしまうため,繰り返し光活性化を行うことができず,また,Opto-XRを駆動するには本来細胞にはない11-cis型のレチナールを外から添加する必要があるなどの問題点が指摘されている。
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