増大特集 生命動態システム科学
Ⅱ.数理生物学
2.分子
(2)生体高分子の排除体積効果と混み合いが生化学反応に及ぼす影響
粟津 暁紀
1
Awazu Akinori
1
1広島大学大学院理学研究科 数理分子生命理学専攻 核内クロマチンライブダイナミックスの数理研究拠点
pp.448-449
発行日 2014年10月15日
Published Date 2014/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425200033
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■細胞内の分子混み合い
細胞内は様々な生体高分子で混み合う“molecular crowding”と呼ばれる状況にある。例えば細胞質中では高分子の占める体積分率が20-40%程度,通常の試験管を用いた生化学実験におけるタンパク質濃度の数十〜数百倍であると見積られている。このような細胞内の混み合いは以前から示唆されているが,近年,特に細胞生物学的現象の物理的側面の研究に関するレビュー論文集,および教科書的な書籍においても取り上げられ,注目を集めている1,2)。
もちろん細胞質は固化しているわけではなく,流動性を持つ。しかし,このような混み合った溶液中での化学反応は,希薄な溶液中でのものと様相が大きく異なると考えられている。例えば分子が混み合った状況では,分子間の衝突頻度が増加するため,希薄な場合と拡散や反応の時間スケールが大きく異なることが容易に想像される。更に最近では,細胞内と試験管内とではそもそも反応の様相が“質的”に異なっている可能性が示唆されており,以下に紹介する研究などによってその描像が描かれつつある。
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