Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
日本人の死因の第一位は悪性新生物(癌)であり,癌の征圧は世界的にも喫緊の課題である。ほとんどの癌はゲノム上の遺伝子に変異が入って引き起こされる1)。Ras-Raf-MEK-ERK情報伝達系を構成する遺伝子は多くの癌で変異が入ることが知られており,この情報伝達系を構成するタンパク質を標的とした抗癌剤がすでに治療に使われ始めている。しかしながら,現状では多くの分子標的薬による治療と同様に癌の根治には至っていない。その原因の一つとして,オリジンを同じとする癌細胞が不均一性(heterogeneity)を獲得し,癌幹細胞としての性質や薬剤に対する耐性を内在的に示すということが考えられている。このように,癌に対して単一細胞レベルでアプローチする必要性が増してきている。
ERK(extracellular signal-regulated kinase)分子はRas-Raf-MEK-ERK情報伝達系の出力部位に位置するセリン・スレオニンキナーゼである。ERK分子は成長因子などの細胞外刺激に伴い,活性化ループのスレオニン,チロシン残基がMEK分子によってリン酸化され活性化する。その後,転写因子などの下流の基質分子をリン酸化し,遺伝子発現を誘導・抑制することで細胞の増殖や分化といった様々な表現型を制御する2)。このような多様な表現型はERK分子の活性化の持続時間による違いによって引き起こされると考えられている。例えば,ラット褐色細胞腫PC12細胞やヒト乳腺上皮MCF-10A細胞では,一過的にERK分子が活性化されると細胞が増殖し,持続的にERK分子が活性化されると細胞分化が引き起こされる3,4)。しかしながら,ERK分子活性の時間変化がどのようにして細胞機能へと変換されるのかは議論の余地が残っていた。また,これまでの先行研究の多くは生化学的手法により,数百万個の細胞を使ってERK分子の活性の平均値を測定してきたが,一つの細胞の中でERK分子の活性がどのように変動するのか,また,その機能的な役割についても不明であった。
Copyright © 2014, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.