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セロトニン神経系の障害は様々な精神疾患で報告されている。特に強迫性障害を中心とする強迫スペクトラム障害(図1)に分類される精神疾患では,選択的セロトニン再取り込阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor;SSRI)が効果を発揮することなどから,セロトニン神経系の障害が症状発現と関連していると想定されている。強迫性障害は長時間の手洗いや確認といった繰り返しの強迫行為が特徴である。過食症では食べることをやめることができず,自分では制御できないという症状が特徴で,抜毛症でも体毛を抜く行為が繰り返される。衝動性を背景とした繰り返しの行動が症状の特徴である。これらの疾患では患者自身も不合理,もしくは無意味だと感じている観念や衝動が強い不安を伴って繰り返し現れ,それに対して不安や衝動の一時的な解消という短期的な目先の報酬が得られる行動を繰り返し選択してしまうという意思決定の異常がみられる。
意思決定については,すぐに得られる小さな報酬と,得るのに時間がかかる大きな報酬のどちらかを選択するという“異時点間の選択問題”を用いた研究が進んでいる。すぐに得られる報酬を過度に頻繁に選ぶ“衝動的選択”は衝動性をとらえる指標の一つとされ,セロトニン機能低下や前頭葉や線条体といった脳領域の障害で引き起こされることが知られている1,2)。Tanakaらは,この衝動的選択とセロトニン,および線条体との関連について,ヒトにおいて食事中のトリプトファンを調整することで健常者に低セロトニン状態と高セロトニン状態を作り,それぞれの状態で異時点間の選択問題を解く課題を遂行中の脳活動をfunctional MRI(fMRI)により測定することで明らかにした。脳活動の時系列データは計算論モデルに基づいて解析され,線条体・島皮質において,腹側が衝動的な短期報酬予測に関与し,背側が長期報酬予測に関与することと,セロトニン濃度が低いときは短期報酬予測に関連した腹側の活動が優位になることを報告している3,4)。
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