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fMRI(functional magnetic resonance imaging;磁気共鳴機能画像法)を中心とした非侵襲的脳イメージングの流布や認知科学の進歩により,医学や神経科学領域以外の研究者も神経科学研究を精力的に行っている。特に,情動,意思決定,意識といったこれまでどちらかと言うと心理学,経済学,哲学といった人文社会分野が扱っていた研究テーマを神経科学的に研究しようとする融合分野が推進され,本特集の著者の多くが参画している新学術領域“予測と意思決定の脳内計算機構の解明による人間理解と応用”においても様々なバックグラウンドの研究者が分野横断研究を行っている。なかでも神経経済学と呼ばれる研究領域は国際学会も設立され,非常に興隆している。神経経済学が興隆してきた一段階前の背景としては行動経済学や実験経済学の確立という事実がある1)。
伝統的な経済学では数式や公理に基づき,意思決定者は個人の利得を最大限になるように“合理的”に振る舞うと想定してきた。しかし,実際の人間の行動は,必ずしも“合理的”ではなく,ときに期待値を計算すると不利な宝くじを購入したり,寄付や協力行為を行ったりする。このように血の通った人間においては,ときに“非合理”あるいは“情動的”な意思決定を行い,情動・同情・モラル・使命感なども意思決定に重要な役割を担っているということが行動経済学・実験経済学で実証されてきた。行動経済学は言ってみれば,伝統的な経済学に認知科学,心理学が融合した学問とも考えることも可能で,実際,2002年に行動経済学の開拓,確立した理由でノーベル経済学賞を受賞したKahnemanも元来は心理学者である。行動経済学と神経科学が融合したのが神経経済学とも言える。これまでのfMRIを用いた神経経済学は“非合理”あるいは“情動的”な意思決定の認知神経学的なメカニズムを明らかにしてきた。次の研究段階としては,この過程に報酬系と呼ばれるドーパミンを中心にした神経伝達物質がどのようにかかわっているか明らかにする必要がある。次に最近の筆者らの分子イメージングによるアプローチの研究の成果を中心に紹介したい。
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